エフェクターの話をしよう

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Chase Bliss Audio / CXM1978

  こんにちは。
 3回目にして早くも発売直後のとんでもないペダルをレビューする事になりました。
 Chase Bliss Audioのモーターフェーダー付きリバーブ、CXM1978のレビューです。

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 今回はかなり長い内容の為、目次付きでお送りします。

CXM1978って一体どんなペダルなのか

 CXM1978は、Chase Bliss Audioが以前NAMM Showで発表したモーターフェーダーを搭載するAutomatoneシリーズの2台目になる、Merisとコラボで開発されたリバーブペダルです。(Automatoneシリーズの1台目は6月頃に発売されたBenson Ampとのコラボで製作されたPreamp mkⅡというペダルになります)
 "1978"でピンと来る方もいらっしゃるかと思いますが、Lexiconのデジタルリバーブがコンセプトにあるようです。このペダルの特徴は言うまでもなくペダルの上半分に6つ並んだモーターフェーダーの存在で、これがプリセットなどを切り替えると自動的に保存されたパラメーターに応じて動いてくれます。エクスプレッションペダルを繋いで、操作するパラメータを設定するとペダルの操作に応じて追従もしてくれます。
 ちょっとプリセット動かしただけの動画を撮っていますので参考までにどうぞ。

www.youtube.com
 こんな具合にプリセットを動かすと自動でカシャっと動いてくれます。これだけでも割と楽しいですね。


 ちなみに人によっては大事な要素になるサイズ感ですが、かなり大きいです。そして重い。

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  比較対象としてBOSSのエクスプレッションペダルを横に置いてみましたが、縦幅が1個分弱、横幅はBOSSのエクスプレッション2個分くらいはあります。重量も、公式のページに1000gと書いてあるので、これ単体で1kgです...。モーターフェーダー付いてるから仕方ないですけど非常に重たいですね。

ペダルの操作に関して

 ここからは主に操作面に関して触れていきます。各ノブ/スイッチに関して書いた結果、雑な説明書みたいになってしまったので斜め読みしてもらうくらいで良いかもしれないです。随分と長くなってます。

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 まず入出力ですが、上の写真の様に、左右(LR)のインプット/アウトプットとEXP端子、AUX端子、MIDIのイン/アウトと9V DCの入力ですね。電源は9V 500mAと現行の単体ペダル(マルチ除く)で見ると最大級に消費電流量が大きいのでパワーサプライを使う場合は注意が必要そうです。
 入出力はラインレベルも対応しているので、シンセ等でも使えます。加えて対応するケーブルを使えばバランス接続にも対応しています。つまりアンバランス/バランス両接続に対応しています。AUX端子は、現時点の日本語マニュアルには記載がないようで、本体同梱の英語マニュアルを見た限りでは、MerisのPreset Switchなどを使うための端子らしいです。(持ってないので未検証なのでこの辺りは試せる人がいたら情報が欲しい所です) 

 実際に操作できるパラメーターは、以下の写真のように、フェーダーで操作できる、PRE-DLY、MIX、TREBLE、CROSS、MIDS、BASSの6つと、ボタンで切り替えるJUMP、TYPE、DIFFUSION、TANK MOD、CLOCKの5つ。あとフットスイッチがBYPASS(長押しでSAVE)、PRESET(長押しでBANK切り替え)の二つです。

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 まずフェーダーでコントロール出来る6つについてですが、これが普通のリバーブと比較した際、独特な動きをします。おそらく一般的なリバーブ系のペダルのイメージで動かすと初めは戸惑うかと思います。 
 戸惑う原因になるのが、左側4つのフェーダー(BASS、MIDS、CROSS、TREBLE)は全てリバーブの長さ(ディケイ)に関与するパラメーターであることです。もう少し踏み込んだ説明をすると、CROSSのフェーダーでクロスオーバーフリケンシー(どの周波数帯でMIDSとBASSを切り分けるのか)を設定し、その周波数より上の帯域のディケイをMIDSで、下の帯域のディケイをBASSで設定する、という形になっています。なお、CROSSの周波数レンジはマニュアルを参照した所、0Hz〜1700Hzとなっています。つまり0Hz〜CROSSで指定した所までのディケイをBASSで、そこから1700HzまでのディケイをMIDSで調整出来ると言うことです。
 さらに一般的なリバーブと全く違う作用をするのがTREBLEで、このパラメータは音の吸収を変化させることで音の反射をダーク/ブライトにする、という働きをします。結果、TREBLEを最小にすると、MIDSやBASSでディケイを長くしていても吸収が大きくなった結果としてディケイが短くなる、というような挙動をします。
 一般的なリバーブのトーンコントロールのように見えて、実はディケイへと作用してくる、ギター用のペダルではほとんど見たことがないタイプのコントロールになっています。

 続いてMIXフェーダーですが、これは定番のリバーブとドライのミックスバランスを決めるコントロールです。ここは一般的なリバーブペダルと同様のものですね。
 最後に一番右のPRE-DLYフェーダーですが、リバーブペダルにはよくあるリバーブがドライ音に追従するまでの時間を設定するパラメータなのですが、ここはフェーダーの下部にあるCLOCKボタンの影響を受けます。設定できるレンジ(反応するまでの長さの最大値)がCLOCKボタンの設定に応じて変化します。細かい数値とかに関しては割愛しますが、CLOCKをHIFIにすると短め、LOFIにするとある程度長く、と言う感じのよう。

 続いてフェーダー下部の5つのボタンについて左側から順に触れていきます。このボタンですが、対応パラメータがどの設定になっているかはランプの色で視覚的に分かるのでトグルとかより扱いやすい気がします。ちなみに押していくと無点灯→青→赤→無点灯で切り替わるようになってます。 
 まず、JUMP。これはAUTOMATONEシリーズ共通のボタンなのですが、プリセットの切り替えをジャンプするためのものです。OFFの状態だと、PRESETスイッチを踏むと0→1→2...9→0プリセットが順に動くのですが、ここがONになっていると、次の移動先を、0番もしくは5番に指定できます。これだけだと何の事だか、と思いますが、これを各プリセットで指定出来るのです。
 そうすると何が出来るのか、と言う事なのですが、例えば0→1→2とプリセットで移動して、2番のプリセットでJUMPを赤に設定してあげると、次にプリセットスイッチを踏むと、5番に飛べるのです。5番プリセットに0番へのJUMP(青)が指定してあると、0→1→2→5→0...というループを組んで使わないプリセットを飛ばしてあげたり、もうちょっと複雑な例だと、1→2→0→5→6→7→0、みたいな動き方も出来たりします。ここにMIDIでプリセットのチェンジなんかも絡めるとさらに色々と出来るんではないかと。(筆者はペダルのMIDIコントロールという奴が長らくイマイチぴんとこないデジタル音痴なのでMIDI周りの解説は詳しい人にお任せしたい所存ですが。)

 続いて左から二つ目のTYPEスイッチですが、ここはリバーブのタイプ切り替えですね。ROOM、PLATE、HALLの3モードがあります。HALLに設定した上で、後述のDIFFUSIONスイッチをLOWにすると隠しモードが使えるみたいです。

 真ん中のDIFFUSIONスイッチは、PRE-DLYフェーダーに関わってきますが、最初の滲み方を決めるスイッチです。LOWは滲みなし(TYPEがHALLの場合は隠しアルゴリズムに切り替わる)、MEDはソフトアタック、HIGHはプリディレイが再生成されて無限に拡散して滲むような音になります。ここをHIGHにして、後述のCLOCKスイッチをLOFIにしてPRE-DLYを高めにするとディレイ的な使い方も出来ます。

 右から二番目のTANK MODスイッチは、リバーブタンク内での揺れ方を設定するスイッチです。すごくざっくり言うとLOW:わずかに揺れる、MED:コーラス的な揺れ、HIGH:速くて浅めのロータリースピーカー的な揺れ、という感じ。 

最後にCLOCKスイッチですが、最近この手のデジタルペダルに多い感じではあるんですが、音の解像度が変わります(フェーダーの所で前述したように、付随してPRE-DLYのレンジも変わります)。HIFIにすると現代的なローノイズなリバーブに、STANDARDにすると1978年風のサウンドに。LOFIにすると、ざらついた質感のリバーブになります。僕はLOFIモードが一番好きでした。

このような各種パラメーターを組み合わせ、気に入った音を作る、という感じです。

実際に弾いてみてどうなのか(総評)

 操作の部分の説明などを見て、「かなり色々な音が作れて万能なリバーブなのでは」と思われる方もいるかと思います。
 それに関しては明確に「違う」と断言します。ペダル名にもある通り、基本的には70年代末〜80年代のデジタルリバーブの音が大前提にあって、それに加えてより現代的でローノイズなデジタルリバーブや、ローファイなリバーブも扱えると言うもので、万能なタイプと言うよりは高品位なデジタルリバーブをパッと作れる、切り替えられるというタイプのペダルです。
 音については「シンセでもギターでも使えて高品位な80年代前後風のデジタルリバーブサウンドが欲しい」という人向けのものに位置付けする感じだと思います。 

 そういう訳で、strymonのNight skyやBig Sky、empress effectsのReverbなどとは役割的には重複してこないと思いますし、互いに代用も出来ないと思います。

 操作面ではモーターフェーダーがとにかく目立ちますが、実の所これがすごく操作性が良くて、加えて今の設定が一見してすぐ把握できる、機能的に良いデザインです。
 某メーカーのペダルみたいにどこかのスイッチを押しながらノブを回すと2ndパラメーターが操作出来て...とかそう言うのもないので比較的シンプルな部類かと思います。あまり迷わずに使える感じで、その辺りはラック機材っぽい雰囲気もあるかもしれませんね。

 欠点についても述べますが、すごく身も蓋もないことを言うと(値段が)高い、(本体が)重い大きい。全てモーターフェーダーの採用に起因する欠点なので、モーターフェーダーの採用に良い面もあるんですが、デメリットも大きいと言うのを如実に示している感じがします。なにせ新品価格は税込10万8900円ですからね...。
 音はめちゃくちゃ良いんで、半額くらいでもう少しボードに入れやすいサイズだったら買う人それなりにいそうなんですが...。 

 そんな訳で、総合してみても全く万人向けではないと思うんですけど、あんまりドンピシャでこの80年代デジタルリバーブの音がハイクオリティに出てくるリバーブペダル、多くはないので、興味ある人は試してみて欲しいなと思います。

 それでは、また次回の記事でお会いしましょう。